「なんでできないの?」
その一言で、生徒は鉛筆を置き、私の目を見なくなりました。
——学習塾を運営する中で、子どもの心が閉ざされる瞬間を、私は何度も見てきました。
叱っても、うまくいかない。わかってはいるのに…
「勉強しなさい!」と言っても動かない。
「さっきも言ったでしょ!」と繰り返しても、子どもはムスッとして、結局なにも変わらない。
親としてイライラするし、焦る気持ちも当然あります。
でも、心のどこかで気づいていませんか?
“叱っても響かない”どころか、逆効果かもしれないって。
学習塾を10年以上運営してきた私は、毎年数十人の小中学生と接しています。
その中で実感しているのは、叱られて動く子より、黙って心を閉ざす子の方が圧倒的に多いということです。
ある小学生の生徒がいました。
計算問題を何度やっても間違えるその生徒に、私が思わずこう言ってしまったんです。
「また同じところで間違えてるよ」
その瞬間、生徒の顔から表情が消えました。
視線は机に落ち、こちらの声への反応が鈍くなる。
「シャッターを降ろされてしまったな」と感じた瞬間でした。
大人から見れば、「ただの指摘」「そんなに強く言っていない」かもしれません。
でも、子どもにとっては「またダメって思われた」「やっぱり自分はできないんだ」という否定のメッセージに変換されてしまうのです。
とくに、自己肯定感が低い子や、繊細なタイプの子どもほどその傾向は強く、
“叱られるくらいならやらない方がマシ”と、心に壁を作ってしまいます。
では、どう声をかければいいのか?
大切なのは、結果を責めるのではなく、「取り組んだ事実」や「過程」に注目して言葉をかけることです。
私が実際に使っている声かけの例をご紹介します。
なんで覚えてないの? → 前より覚えているところが増えてきたね
また間違えたの? → ここは前回もミスしたけど、あと少しで正解できそうだね
早くやりなさい! → 今どこから始めるか、一緒に決めてみようか
このように声をかけることで、子どもは「認めてもらえた」という感覚を持ちやすくなります。
それが、次の行動への小さなモチベーションになるのです。
実際、先ほどの生徒にも、私は言葉を変えてアプローチし直しました。
「この問題、最初は3回間違えてたけど、今日は1回だけだったね。成長してるよ」
彼は小さく笑い、「次は0回にする」と言ってくれました。
叱らずに導く。難しいけれど、一番効果のある関わり方です。
子育てにおいて、感情をコントロールするのは本当に難しいことです。
「怒りたくないのに怒ってしまう」「もっと優しくしたいのに余裕がない」
そんな自分を責めてしまう親御さんも多いかもしれません。
でも、今日の声かけをひとつ変えるだけで、子どもとの関係は少しずつ変わっていきます。
できないことを責めるのではなく、
「できそうなこと」「できてきたこと」「やろうとした気持ち」に目を向けてあげてください。
子どもは、“怒られないように”ではなく、“認められたいから”努力するようになります。
今日、子どもにかける言葉を、たった一言だけ変えてみてください。
「まだできてない」ではなく「ここまでできるようになったね」と。
それが、子どもがまた机に向かうきっかけになります。
私たち大人の言葉には、それだけの力があります。